みなさんこんにちは! 小説などのレビューを行っている旅狼のレビュー小屋です!
今回は、西尾維新の『悲鳴伝』をご紹介していきます!
「読書好きを名乗るなら西尾維新の作品は1冊くらいは読んでおかないとな!」ということで手に取った一冊。「シリーズものではあるがこの一巻だけでも十分」という口コミが多かったため読んでみました。
あらすじや実際に読んだ感想、オススメできる人、名言や要約をご紹介していきますので、『悲鳴伝』が気になっている方はぜひ参考にしてみてくださいね!
『悲鳴伝』のあらすじと感想
まずは、『悲鳴伝』の内容やあらすじ、気になる感想についてお話ししていきます。
あらすじ
2012年10月25日、午前7時32分。「大いなる悲鳴」と呼ばれる謎の災害によって、人類の3分の1が死滅してしまった世界。
彼の名は空々空(そらからくう)。どこにでもいない十三歳の少年。彼は自分が何事にも心を動かされない人間であることに苦悩していた。
「大いなる悲鳴」の悲劇から半年後の2013年5月27日、飢皿木診療所を訪れた空々空は、問診によって素質を見出され、地球撲滅軍を名乗る謎の組織に勧誘される。その内容は「人類を滅ぼそうとする悪しき地球と闘うヒーローになってほしい」というものであった……。
そして、風変わりな少女、剣藤犬个(けんどうけんか)との出会いが、日常かもしれなかった彼の何かに終わりを告げた。ひどく壮大で、途轍もなく荒唐無稽で、しかし意外とよく聞く物語が、そんな終わりを合図に幕を開けるのだった。
西尾維新『伝説シリーズ』の第1巻! 堂々の開幕!
そもそも「伝説シリーズ」とは?
あらすじのついでに、「伝説シリーズ」についても簡単にご紹介します。
「伝説シリーズ」は西尾維新によるライトノベル(ラノベ)で、講談社ノベルスにて2012年4月から2018年3月まで刊行されました。キャッチコピーは「西尾維新史上、最長巨編」「最長巨編にして、新たなる英雄譚」。2022年10月時点で、シリーズ累計部数は80万部を突破しているそうです。
全10巻からなり、『悲鳴伝』『悲痛伝』『悲惨伝』『悲報伝』『悲業伝』『悲録伝』『悲亡伝』『悲衛伝』『悲球伝』『悲終伝』と、『悲⚪︎伝』とそれぞれの巻にタイトルが付けられています。シリーズの物語はすでに完結しており、漫画化もされています。アニメ化は残念ながらまだされていませんが、今回ご紹介している『悲鳴伝』だけでもアニメ化すると面白いのではないかな、と個人的には感じるところです…!
そして、2022年10月14日に「文庫版」の『悲鳴伝』が発売されたことを皮切りに、伝説シリーズの文庫版出版が現在進められています。ノベル版(普通版)と文庫版は表紙と中身の書かれ方に違いがあり、ノベル版は表紙が文字だけ+中身の文章が2段組になっているのに対し、文庫版の表紙には(現時点では)各巻の重要人物と思われるヒロインのイラストが描かれている+中身は一般的な文庫と同じ形(下まで一行で書かれている)になっています。
一気に伝説シリーズを読みたい、ということでなければ、個人的には「文庫版」の方が表紙も魅力的で、中の文章も読みやすいと感じています!(もっとも僕は、表紙を見て”ジャケ買い”している人間ですので…!笑)
率直な感想
そんな『悲鳴伝』を読み終えて、まずは実際、「この一巻だけでとてもオススメできる!」と強く思いました。そして、「ああ、これが西尾維新の作品なのか」とも感じることができました。
もちろん、すでに西尾維新の作品を読んだことがある人ならもっとこうだとかもっとああだとかあるのかもしれませんが、Amazonなどのレビューを見るとこの作品もよく”西尾維新み”が出ていると言われているので、多分僕自身の感性はズレていないと思います、思いたい。笑
初めての西尾維新を読んで
『化物語』に始まる『物語シリーズ』や『掟上今日子の備忘録』に始まる『忘却探偵シリーズ』など、数多くのシリーズで知られる西尾維新。僕は『化物語』シリーズのアニメを見たことがあるだけでしたが、そんな僕の西尾維新の作品へのイメージは、良く言えば「テンポの良い会話劇」、悪く言えば「遠回りで冗長に感じることのある表現」でした。
そして今回、初めて西尾維新の小説を読み、僕は”西尾維新らしい”言葉遣いとか表現の仕方が結構しっくりきました。言葉遊びやテンポの良い会話が、すごく何気ない感じなのが好きでしたね! 癖になる感じなんです…!確かに読む人によってはくどいように感じるのもわかりましたが、僕はそれも込みで楽しめました。
また、最初はこの本の厚さにビビっていたのですが、改行が多いせいか、それともこの冗長なようでテンポが良い(と僕は感じた)会話劇のせいか、読み終えてみると「本当にこのページ数なのか⁈」と自分を疑いたくなるくらい、勢いよく読み進めることができました。それだけ物語の世界に没頭できたってことだと思うし、楽しんでいたのだと思います。
内容の面白さ、キャラクターの魅力、キャラの名前とキャラクター性、最後の展開、そのすべてにおいて、気になっている方にはぜひ読んでほしい、オススメの一冊だと言えますよ!
これは特に僕特有の感想かもしれないけれど…
そして、これは僕特有の感想かもしれないのですが、空々空(そらからくう)君の異常性が、僕自身にも通ずるところがあり、僕自身が感じていた違和感に対して求めていた答えに近いものを得られたことが、猛烈に衝撃だったのです…!空々君ほどじゃないにしても、僕自身、あまり心が動かないタイプで、それでいて、それを隠すように日々演じるように生きているということが、「そういうことか!」と言語化されて表現されていたのが嬉しかったです。
どんな人にもオススメできる小説ではありますが、特に「なんか自分って他の人と違うかも」と感じている人には、ぜひこの『悲鳴伝』を読んでみてほしいですね!
気になっている方はぜひ読んでほしい!
この『伝説シリーズ』は全10巻ですが、次巻以降は展開が大きく変わるらしいし、少なくともこのシリーズ第1巻『悲鳴伝』は本当に「これで完結」という雰囲気があります。シリーズものとは思わず、「『悲鳴伝』という一冊で一作品」と思っても十分すぎるほどに楽しめるはずです。
『悲鳴伝』、気になっている方、このレビューを読んで気になり始めたという方は、ぜひお手に取ってみてください!!
ネタバレありの感想
では、ここからネタバレありでさらに『悲鳴伝』の感想や内容を深掘りしていきます。
!ここからネタバレあり!
話の内容としては、「心が動かない空々空と、心がどうしても”動いてしまう”剣藤犬个の物語」というかんじでした。そこに数人の濃いキャラたちが絡んでくるわけで。名前は出てきたけどほんの一瞬しか姿は見られなかったキャラもいましたが、そういうキャラも印象に残っているので、やっぱり西尾維新の独特な描き方が上手なのだろうと感じました。
それでもこの物語の中心は、主人公の空々空とヒロインの剣藤犬个と、どうしようもなくヒロインになりきれなかった花屋瀟なのだと思います。
そして、物語シリーズのアニメではあまり感じられなかったことですが、西尾維新の作品は、本来グロテスクで人が死んでいくことが多いそうですね。そういういう意味でも、この『悲鳴伝』は本当に”悲”という一文字が相応しい一冊だと感じました。
剣藤犬个が、終盤あるいはラストで死んでしまうというのは途中でほぼ確定した表現が使われていたのでわかっていたことではありましたが、だからこそ、「このキャラは生き残るのだろうか?」ではなく、「このキャラはどう退場するのだろう?」という気になり方をしていたのも、とても新鮮でした。ネタバレが良いってわけじゃないし、こういうスタイルにはまだ慣れないけれど(物語の中でネタバレをくらうのは、もはや物語の一部と思うしかないじゃん)、こういう楽しみ方もあるのか、とは思いました。これもまた、西尾維新の面白さなのかもしれませんね…!
『悲鳴伝』の名言・要約・考察
では、『悲鳴伝』で個人的に気に入った名言と、そこからつながる内容の考察と要約をご紹介します。
完璧であることと、完璧主義であることは違いますよ
「完璧主義の人間というのは、大抵の場合、大成しませんから」
「? そうなの? 完璧なのに?」
「完璧であることと、完璧主義であることは違いますよ——天才と天才肌くらい違います」
〜(中略)
「完璧主義の人間は、最初から完璧を目指すので、未熟な自分が許せないーだから、トライ&エラーができないんですよ。失敗をただ恥じ、ただ回避しようとする——それゆえに失敗を繰り返す。失敗と向き合えないからです。彼らは一生、同じ失敗を繰り返す」
p268~p269
完璧主義についての深い考察です。
僕自身もどちらかというと完璧主義で、まさに「失敗を恥じ、ただ回避しようとする。失敗と向き合えない」性なので、耳が痛い話です…。「失敗と向き合う」ことこそが、完璧になりたい完璧主義者がするべき行動なのでしょう。
「組織」とは?
空々ちゃん。組織ってのはどうにも困りものだよな——ある一定以上に大きくなっちまうと、大きくなり過ぎると、もう正義とか悪とかじゃなくなっちまうよな。正しかろうと間違ってようと、突き進むしかなくなる集合体になるっつーか、もう絶対に属する個人の意志では軌道修正が利かなくなるし、誰にも全体が把握できなくなってくるよな。地球撲滅軍にしたって、細部細部はきちんとしてても、全体じゃあバランスががっつり崩れていて、だからこそ部署間の連携がうまく取れてねーんだと俺は思うぜ。思惑が複雑に絡み合っちまって、意外と一枚岩になれてねぇ……『大いなる悲鳴』以降はあからさまにそうだって、『犬』の俺にもわかる。だからここんとこ、地球に対して不利な戦いを強いられてんだろう。
p362
「組織」というものについて、こちらも深い考察です。確かに、まさにこの通りだと思いますね…。
目に見えるものが信じられない。だが、ならば何を信じればいいのだろうか。
目に見えるものが信じられない。だが、ならば何を信じればいいのだろうか。
p557
人は目からの情報、視覚情報を一番頼りに生きる。それを信じられないとなると、一体何を信じればいいのか、というのは、こう言われてみるととても考えさせられますよね。
でも同時に、「たとえ信じられなくても、それを信じざるを得ない。それが実際に起きた現実なのだから」ということも、この言葉の奥には感じるのです。現実でも、「信じられない光景」「現実とは思えない光景」ということがありますが、起こったことであるなら、それを信じるしかないですからね、我々は…。
聞こえのいいところだけを抜き取って、何かをわかったような気分になるのは人間の悲しい習性だ
「〜(略)聞こえのいいところだけを抜き取って、何かをわかったような気分になるのは人間の悲しい習性だ。『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』という冒頭の一文だけを読んで、『学問のすすめ』のすべてを知ったような気になるくらい、愚かしいんだがね」
「ああ…あれは福沢諭吉の言葉じゃないって奴ですよね」
「ただしそういう悲しい習性を、愚かのひと言で切って捨てるのもまた、危険だ。人間は誰だってそんな罠に嵌る……嵌るから罠なんだ。それを愚かと言えば、自分に愚かと言っているようなものだ。たとえば空々くん。きみは今、地球撲滅軍が持つ様々なアイテムを、何の疑問もなく『科学の発達』として捉えているようだが…実際のところ、それはどうかな? 案外、それは本物の魔法なのかもしれないよ」
飢皿木博士は言う。律儀にコーヒーを飲みながら。
「高度に発達していない魔法なら科学に見えるかもしれない——じゃないか」
p614
アーサー・C・クラークの三法則、
・高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。
・可能性の限界を測る唯一の方法は、その限界を少しだけ超越するまで挑戦することである。
・十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。
の引用から始まるこの会話。
ただの言葉遊びをしているシーンにも見えますが、個人的には、こういう視点はおもしろいと思いましたし、こういう視点を持ちたいとも感じました。
「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」のであるならば、「高度に発達していない魔法なら科学に見えるかもしれない」と考えられる視点。こういう見方ができれば、ただ与えられた情報を鵜呑みにせず、自分の中で咀嚼した上で解釈し、自分の考えや意思をより強く持てるような気がするのです。
『悲鳴伝』の基本情報(作者・ジャンル・出版社)
最後に、『悲鳴伝』の基本情報です。
【著者】西尾維新
【作品ジャンル】冒険小説、終末物、SF
【出版社】講談社文庫(講談社ノベルズ)
『悲鳴伝』の試し読みはできる?
一部のオンラインブックストアで『悲鳴伝』の試し読みがありますが、「いざ開いてみると目次まで」となっています。
実質、『悲鳴伝』の試し読みはできないと言えるでしょう。
また、『悲鳴伝』から始まる伝説シリーズは、本屋さんでもビニールカバーをして売られていることがほとんどなため、立ち読みという形で試し読みをすることもできません。気になる方は購入して読んでみましょう!!
『悲鳴伝』 まとめ
ということで今回は、西尾維新の『悲鳴伝』のブックレビューとして、あらすじや感想、名言や考察をお届けしてきました!
シリーズ物の最初の一巻でありながら、この一冊だけで『悲鳴伝』という物語として十分に楽しめる。
西尾維新の作品に興味がある方はもちろん、作品そのものが気になっている方、タイトルやジャケットから買おうか迷っている方まで、とにかくこの『悲鳴伝』が気になるならぜひお手に取って読んでみることをオススメします! きっとこの本でしか得られないものがあるはずですよ!
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